胃・大腸の内視鏡手術について

病院長代理、医務局長 畦元 亮作(あぜもと りょうさく)

今回私は、皆さんに胃・大腸の内視鏡手術についてお話をさせて頂きます。胃や大腸などの消化管の壁は、食べ物の通り道である管腔側から粘膜・粘膜下層・筋層・漿膜と4層構造となっており、内視鏡手術は管腔側から粘膜の病変を切除します。主な対象は、粘膜に限局した粘膜内ガンとガンに進行する可能性を持つ腺腫と呼ばれる良性の腫瘍性病変です。ガンに進行する可能性の少ない病変でも、出血を起こしやすいなど生体に不利益をもたらす病変は対象となりえます。
どのような性質の病変であれ、また胃・大腸いずれの病変であれ、基本的には粘膜下層と呼ばれる消化管の壁内に薬液を注入して病変を盛り上げてから電気メスで粘膜病変を切除・回収してきます。切除された部分は必ず潰瘍になりますから、手術には当然のように出血・穿孔(穴があく事です)の危険がつきものとなります。しかし胃と大腸では臓器としての性格やそこにできる病変の性状に若干の違いがありますので、頻用される手術手技や手術の合併症対策にも若干の違いがあります。そこで少し個別に詳しくお話してみましょう。

大腸の粘膜病変の場合、ほとんどで正常粘膜との境界は明瞭で、ポリープと呼ばれる隆起した形状を示すことが多いのが特徴です。しかも大腸の場合粘膜下層に入れた薬液は局所にとどまりやすいので、病変を盛り上げたらすぐにスネアーと呼ばれる輪状のメスを用いて病変を切除します。大腸の壁は薄くて縮めやすいので、切除後の潰瘍が比較的大きな場合でもクリップと呼ばれる器具を用いて傷口を縫縮・閉鎖することが多くの場合可能です。しかし万一穿孔した場合は、便汁が腹腔に流出して腹膜炎を起こすために直ちに外科的に開腹して穿孔部を縫い合わせてもらう必要が生じます。粘膜内ガンも、多くはポリープが大きくなって癌化する発育形態をとるとされています。そこで私達の施設では癌化の危険と内視鏡手術の危険とを照らし合わせて、病変が5mm以上の大きさになった場合に内視鏡手術をお勧めする方針で臨んでいます。

一方胃の病変の場合、ガンであっても境界が不鮮明で病変を染めてみたりしないと判然としないことがしばしばあります。病変も平坦であったり隆起したり、はたまた陥凹や潰瘍形成を伴ったりと様々な形態を示しますし、ガンそのものの悪性度も種類によってまちまちです。よって胃の粘膜内ガンの場合、大腸の粘膜内ガンより神経質に対応する必要がでてきます。基本的には、消化器病に携わる内科医・外科医の学会でコンセンサスの得られた指針に基づいて個々の患者様に内視鏡手術の是非を提示させて頂いくことになります。そして内視鏡手術に際しても、病変の存在部位や形態に応じて手技を使い分ける必要が出てきます。

最近私が当院に持ち込んだ内視鏡的粘膜下剥離法という手技も、主に胃の粘膜内ガンに対する治療手技です。この方法を用いる事により、今までは開腹手術に頼らざるをえなかった大きさの粘膜内ガンも内視鏡で手術できる機会が増えました。胃を切除された方の術後の食生活の大変さを考えると内視鏡的に治療する機会が増えることは大いに喜ばしいことと考えますが、この手技は出血・穿孔の危険が通常の内視鏡手術に比べて高いのも事実です。尤も胃での穿孔の場合は大腸と異なり、穿孔部をクリップで縫合した上で鼻からのチューブを留置して抗生剤を用いながら内科的に治療することも可能です。そこで私達の施設で胃の病変に対して内視鏡手術をお勧めする場合は、十分時間をかけた説明をさせて頂くように努力しています。

最後に、皆さんはよく早期ガンという言葉をお聞きになると思いますが、早期ガンとはガンが粘膜もしくは粘膜下層までにとどまるものを指します。これらの早期ガンのうち内視鏡手術の対象となるのはガンが粘膜内に限局した粘膜内ガンだけです。ガンが粘膜下層に一定の深さ以上入っていた場合は消化管の外側にあるリンパ節にガンが広がっている可能性があり、外科的開腹手術でリンパ節も切除しないと根治は期待できなくなります。ですから、粘膜内ガンと診断して内視鏡手術を行っても術後の病理診断でガンの粘膜下への浸潤を認めたので改めて開腹手術をお勧めするという場合もありえます。内視鏡手術を受ける機会に遭遇されましたら、術前に合併症に対する十分な説明を受けて納得のゆく診療とされることを、そして術後には病理診断に基づいた治療もしくは経過観察を受けられることをお勧めします。

 2018年4月2日 定期確認実施