「被ばく」というと、怖い、被ばく事故、などのネガティブなイメージをしてしまいがちです。実際に、過去には被ばくによって作業員が亡くなってしまうような痛ましい事故が発生しております。
ですが、被ばく事故によって死亡してしまうような放射線量と、診断で用いられる放射線の量には圧倒的な差があります。
急性被ばくによる放射線の致死量というのは、一般的な胸部レントゲン撮影の約10万~30万倍程度とされています。ですが、これはごく短期間で被ばくした場合であるということに留意しなければなりません。
食塩ですと、一日の摂取量目安は18歳以上の男性で8g未満とされ、1年あたりにすると約3kg(2920g)となりますが、3kgもの塩を一日もしくは数日で食してしまうと、体に多大な影響が出てしまいます。(数百gの塩分を一度に摂取すると死に至る可能性があります)
放射線も、短時間で胸部レントゲン30万回分の被ばくをしてしまうと、死に至る可能性があるということですが、実際の検査で起こることはありません。
では実際に検査での被ばくは、人体に影響を及ぼすものなのかというと、直ちに影響が出るようなことはありません。100mSvという量に至るまでは発がんなどのリスクの増加は認められていません。たとえ100mSvに達したとしても、発がんによって将来死亡する確率が0.5%上がる程度で、野菜不足によるリスクと同程度と考えられています。
一般的な胸部レントゲン1回撮影での被ばくは、0.02mSv~0.06mSv、一般的な単純CT検査は5~30mSvといわれており、これは100mSvという野菜不足のリスクと同程度の量よりも、ずっと少ない値です。
放射線技術科では、高度で良質な医療を提供するとともに、患者さんの不安を少しでも解消し、安心して検査が受けられるように日々努力しております。
スマートフォンのカメラなどは技術の進歩によって、夜景のような光が少ない状況でもきれいな写真が撮れるようになっています。それと同じように、CTやレントゲン撮影装置、血管撮影装置など、多くの放射線装置医療機器も、少ない放射線できれいな写真が撮れるようになっています。そこで当院では、定期的に機器を評価し、費用とのバランスを考えながら新しいものに更新することで、被ばく低減を図っています。また、最新の機器は今まで見えなったものや、表現できなかったものが表現できるようになったり、被ばくが少なくなったにもかかわらず多くの情報が得られる装置が増えており、診断の質の向上にも寄与しております。
被ばく量を多くすると、レントゲン写真はきれいになる傾向があるのですが、必要以上にきれいになっても、見えるものは大きく変わりません。これは、スマートフォンなどでデジタル写真を撮るには明るさが必要ですが、必要以上に明るくてもあまり変わらない写真になってしまうことに少し似ています。つまり、必要以上にきれいなレントゲン写真は、無駄な被ばくを伴うということです。
これは、診断に必要な”きれいさ”を十分に検証し、見極めることで無駄な被ばくを低減することができるということを意味します。
そこで当院の放射線技術科では、その”きれいさ”のレベルだけでなく、技術的な手法なども定期的に検証し、見直すことで被ばくとのバランスを高度に保ち、不要な被ばく低減を実現しております。
最近では、被ばくのデータを収集し、最適化のための参考値を作成するという、世の中の動きがあります。JRIMEの、DRLsというものがそのうちの一つで、国内の病院の被ばく情報をもとにした参考値を作成しています。当院でも定期的にデータの収集と検証を行い、DRLsとの比較検討を行っております。以下が、2021年度の結果です。(数字が少ないほうが放射線量は少ない)
当院の放射線検査は高いレベルの”きれいさ”が求められる精密検査が多いため、被ばくは多くなる傾向があるのですが、定期的な検証作業によって、以下のように低く保っております。
各モダリティ | 診断参考レベル値(※1) | 当院の値(2023年度) |
---|---|---|
一般撮影(胸部) | 0.3mGy | 0.1mGy |
一般撮影(腰椎正面) | 3.5mGy | 1.2mGy |
一般撮影(乳房) | 1.4mGy | 1.27mGy |
CT(頭部)CTDI vol DLP |
77mGy 1350mGy・cm |
59mGy 1023mGy・cm |
CT(全腹部単純)CTDI vol DLP |
18mGy 880mGy・cm |
12mGy 631mGy・cm |
IVR(血管造影) 基準透視線量率 |
17mGy/min | Angio室 8.5mGy/min 心カテ室 4.5mGy/min |
核医学(骨シンチ) | 950MBq | 847MBq |
※1Japan DRLs2020より引用
君津中央病院放射線技術科では、被ばくの最適化、低減に向けた取り組みを続けてまいります。