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ガンの話

君津中央病院は平成14年8月厚生労働省より地域がん診療拠点病院に指定されました。皆さんご存知のように癌は、心臓病、脳卒中とならんで三大成人病の一つとされています。日本人の平均寿命の伸びとともに高齢化社会を迎え、がん患者数は年々増加しています。老化とがんとは切っても切り離せない関係にあります。がん発生のメカニズムも近年遺伝子レベルで解析され、いろいろなことがわかってきました。新しい抗がん剤も次々に開発され、その効果も一昔前と比べると格段の違いがあります。それでも薬物治療のみですべての癌が治るような夢の抗がん剤は残念ながらまだ開発されていません。もしそのような夢の抗がん剤が近い将来開発されれば、我々外科医の仕事は半減すると思われます。
癌の手術は外科のみで行われているわけではなく、君津中央病院でも呼吸器外科(肺がん)、泌尿器科(腎がん、膀胱がん、前立腺がん)、産婦人科(子宮がん、卵巣がん)、耳鼻咽喉科(咽頭がん、喉頭がん、甲状腺がん)など多岐に亘っています。このうち外科で扱うのは、乳がんと消化器系の癌(胃がん、大腸がん、食道がん、肝がん、胆道がん、膵がんなど)です。がん治療も手術がすべてではなく、それぞれの癌の特性や進行度、患者様の体力に応じて、薬物治療や放射線治療を含めた最適な治療法が選択されます。そのために君津中央病院でも毎週定期的に、外科、消化器内科、放射線科、病理診断科の医師や看護師など多職種が集まって症例検討を行い(キャンサーボード)、個々の患者様にとって最適の治療を提供できるよう努力しています。
地球誕生より46億年の歴史から見ると、我々人類(ホモ・サピエンス)は誕生してからまだ約20万年といわれています。我々が日々診療で扱っているがんも、個々のがんの歴史から見るとその最後の一瞬を見ているに過ぎません。我々が臨床で取り扱うがんはせいぜい1cm前後からです。MD-CT、MRI、超音波診断装置、電子内視鏡など様々な医療機器の進歩により、より微小ながんも見つかるようになってきましたが、それでも5mm位が現在の限界と思われます。ごく稀に数mmのがんも見つかりますが、それは偶然の産物にすぎません。一個のがん細胞が1gのがんに育つまでに約30回の細胞分裂が必要と言われてます。一個のがん細胞が出現してからの全期間は、10~20年あるいはそれ以上となり、我々はがんの歴史の最後の数年を相手にしているにすぎません。でも最初の一個一個のがん細胞を相手にしてもそれは無駄な抵抗です。そのような一個一個のがん細胞は見つけようと思っても見つけられませんし、そのような細胞は我々の体の中で一日何百個、何千個もできています。そのようながん細胞を相手にしていたらノイローゼになってしまうでしょう。がんは最初から癌なのではなくいくつものDNAの突然変異を重ねてがんになります。その間にDNA修復遺伝子が働いたり、NK細胞(Natural killer cell)といった免疫細胞の攻撃をうけて大部分は死滅してしまうからです。我々の体の中にはもともと癌を治す仕組みが備わっているのです。
230個のがん細胞の塊である1cm前後の癌でも大部分がいわゆる早期がんで、この時期に手術的に切除できればほぼ完治できます。不思議なのは1cmの小さながんでも早くから肝転移や肺転移、リンパ腺転移を起こし、外科的に対処できないたちの悪いがんもある反面、逆に5cm~10cmと大きく進行がんとなってから見つかって手術しても治るがんもあります。現在こういったがんの立ち振る舞いの違いを遺伝子レベルで解析する研究が進み、近い将来治療法選択の大きな一助となるものと思われます。
外科で扱う各領域の癌治療のトピックをご紹介します。

【食道がん】

食道がんの手術は開胸開腹というかなり侵襲の大きな(患者さんにとってダメージの大きな)手術となります。最近では術前化学療法を行なうことにより、手術成績の向上を目指す試みも行われています。早期のものでは、内視鏡的粘膜抜去(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)といった侵襲の少ない治療も可能で、内視鏡治療、手術、放射線化学療法(放射線と抗がん剤の組み合わせ)など、キャンサーボードにて症例毎に適切な治療法を選択しています。

【胃がん】

昔は一律に画一的な手術を行っていましたが、最近は進行度に応じたリンパ節郭清を行い、早期のものでは縮小手術により患者様の体の負担を軽減する努力をしています。また、新しい抗がん剤も出てきて、手術の補助療法として術前、術後に使用しています。食道がん同様、早期のものでは内視鏡的粘膜抜去(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)といった内視鏡治療も可能で、腹腔鏡補助下の胃切除など侵襲の少ない手術も行なっています。

【大腸がん】

部位と進行度により、可能なものは腹腔鏡補助下大腸切除という小さな傷ですむ手術を行っています。また肛門に近い直腸がんでは、以前はマイルス手術といって人工肛門となる手術を行っていましたが、最近は症例により、できるだけ肛門を残す手術を目指しています。やはり、早期のものでは内視鏡治療も可能です。

【肝がん】

肝切除の手術治療を筆頭に、経皮的エタノール注入療法(PEI)、ラジオ波焼灼療法(RFA)、マイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓療法(TACE)など様々な非手術的治療のオプションがあります。肝機能、進行度、患者さんの体力に応じて、キャンサーボードで最適の治療法を検討し、患者さん御家族との相談の上決定します。B型慢性肝炎、C型慢性肝炎といった肝癌の高危険群の方は、定期的検査が必要です。最近は“non B non C”と言われる、B型肝炎でもC型肝炎でもない患者さんからの肝がんが増加してきており、注目されています。

【乳がん】

検診に触診に加えマンモグラフィー(乳腺のレントゲン)が導入されるようになり、より小さな乳がんが多く見つかるようになってきました。このような小さな乳がんに対しては乳房温存手術も増えてきました。症例によりセンチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検を行い不必要な腋の下のリンパ腺郭清を省略し、術後のリンパ浮腫の軽減に務めています。
最後に、最近、新聞、雑誌等マスコミで民間の様々な免疫療法や、アガリクス、メシマコブ、プロポリスといったサプリメントがもてはやされています。これらの効果をまったく否定するものではありませんが、これだけでがんを治そうというのはやはり無理があります。これらに頼るあまり適切な治療の機会を逸してしまうのが心配です。免疫療法は時に奏功する患者さんもおられますが、多くは保険適応外で高額な医療費を必要とします。宣伝に踊らされて無駄なお金を使う前に、是非専門医に相談していただきたいと思います。
君津中央病院 病院長 海保 隆

2020年6月10日定期確認実施