単孔式胸腔鏡下手術 (Uniportal VATS)
単孔式胸腔鏡下手術とは
単孔式胸腔鏡下手術は4cm以下の創1か所から胸腔鏡(カメラ)、手術器具を挿入して行う手術です。
2004年に初めて肺楔状切除術での適応の報告、2011年に肺葉切除術に関する報告があります。使用する創が1か所のみであるため、術後疼痛の軽減が期待される肺癌低侵襲手術の一つであり、アジアや欧州を中心に盛んに施行され、近年本邦でも普及し始めています。
君津中央病院呼吸器外科では、2019年8月に自然気胸での導入以降、自然気胸での嚢胞切除術や肺腫瘍での肺楔状切除術ではほぼ全例で施行しております。
肺悪性腫瘍に対する肺葉切除術/区域切除術では、単孔式胸腔鏡下肺葉切除術のエキスパートである都立墨東病院呼吸器外科江花弘基医師(https://www.tmhp.jp/bokutoh/section/surgery/pulm-surge.html, (2253) Hiroki Ebana MD, PhD - YouTube)指導の元、2020年6月より施行しており、以降症例を選んで積極的に施行しています。
縦隔腫瘍等においても積極的に単孔式胸腔鏡下手術を施行しています。
自然気胸手術や肺腫瘍での楔状切除術での単孔式胸腔鏡下手術
2019年8月導入以降、自然気胸に対する嚢胞切除術や肺腫瘍に対する肺楔状切除術にて、単孔式胸腔鏡下手術を積極的に施行しています。
若い患者が中心である原発性自然気胸では2-2.5cmの創で、タバコが原因となる肺気腫や間質性肺炎が原因となる続発性自然気胸では、2.5-3cmの創を用い単孔式胸腔鏡下手術を行います。手術は多孔式胸腔腔鏡下手術と同じ自動縫合器を用いた嚢胞切除術を主に行います。責任病変を切除し、再発予防のためにPGAや酸化セルロースによる胸膜補強を行います(図1 a-c)。
肺癌や転移性肺腫瘍等の肺悪性腫瘍や炎症性肺疾患等の肺良性腫瘍に対し症例を選んで、単孔式胸腔鏡下手術を行います。3-3.5cmの創で、肺腫瘍に対し十分にマージンを確保し、肺楔状切除術を施行します (図2)。
自然気胸での嚢胞切除術や肺腫瘍での肺楔状切除術では、2023年6月の時点では約9割の症例で単孔式胸腔鏡下手術を施行しています(表1,2)。
単孔式胸腔鏡下手術では、多孔式胸腔鏡下手術と比して、手術時間や退院までの日数も変わらず、術後疼痛が少ないことが期待されます。
図1 自然気胸に対する単孔式胸腔鏡下嚢胞切除術
a:創部:2cm |
図2 肺腫瘍に対する単孔式胸腔鏡下肺楔状切除術
自動縫合器による肺楔状切除術 |
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
単孔式手術 | 4 | 33 | 22 | 29 | 37 |
気胸手術総数 | 11 | 42 | 27 | 32 | 39 |
単孔式手術割合 | 36.4% | 78.6% | 81.5% | 90.6% | 94.9% |
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
単孔式手術 | 4 | 13 | 18 | 32 | 28 |
肺楔状切除術総数 | 16 | 42 | 42 | 36 | 32 |
単孔式手術割合 | 6.3% | 31.0% | 42.9% | 88.9% | 87.5% |
肺悪性腫瘍での肺葉切除術/区域切除術での単孔式胸腔鏡下手術
2020年6月より単孔式胸腔鏡下肺葉切除術/区域切除術を施行しており、以降症例を選んで施行しています。
4cmの創で行います。
適応症例は、原発性肺癌では、リンパ節転移を伴わない腫瘍径30mm以下のI期肺癌に対し行います。転移性肺腫瘍では、肺楔状切除術が困難な中層にある腫瘍に対し行います。進行肺癌は、胸腔鏡併用の小開胸手術(創部8cm)での手術を行います。
単孔式胸腔鏡下手術では、胸腔鏡併用小開胸手術と変わらない手術を目指しております。現時点では、症例を選んで単孔式胸腔鏡下肺葉切除術/区域切除術を施行していますが、徐々に症例を増やしています(表3)。
単孔式胸腔鏡下手術では、胸腔鏡併用小開胸手術と比して、手術時間や退院までの日数も変わらず、術後疼痛が少ないことが期待されます。
図3 肺悪性腫瘍での単孔胸腔鏡下肺葉切除術
a:創部:4cm |
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
単孔式手術 | 0 | 2 | 8 | 10 | 20 |
肺葉切除/区域切除総数 | 25 | 62 | 61 | 70 | 78 |
単孔式手術割合 | 0% | 3.2% | 13.1% | 14.3% | 25.6% |
単孔式胸腔鏡下手術の適応や術式の詳細等について、質問がありましたら、 呼吸器外科担当医まで遠慮なくお尋ねください。
2024.4月 藤原大樹 (呼吸器外科 科長)